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z049 (07月13日) bite off more than one can chew 「手に余ることをしようとする」 直訳: 咀嚼できる以上のものを噛み切る 例文: Don't bite off more than you can chew, or you'll be stuck. できないことまでかかえると, 二進も三進も行かなくなるぞ。 1880年ごろアメリカで生まれた慣用句。 ここで bite して chew するのは噛みタバコ(plug tobacco)。 タバコの葉などで作られた固形物を噛み切り咀嚼して, 出てくる唾液を吐き捨てる― というのが噛みタバコの愉しみ方のようです。 おそらく咀嚼できる以上のタバコを口に入れると, 唾液の処理に困るというのがこの慣用句の起源なのでしょう。 ことわざで言うと His eye is bigger than his belly. 「食べきれないのに食べたいと欲を張る(直訳:彼の目は腹より大きい)」が近いでしょう。 他のヨーロッパ諸語の似ている表現との比較 フランス語 avoir les yeux plus gros que le ventre 直訳: 腹よりも大きな目を持つ 意味: 食べられる以上に料理をよそいたがる;高望みする イタリア語 fare il passo più lungo della gamba 直訳: 脚より長い歩幅で歩く 意味: 実力以上のことをしようとする ドイツ語 Seine Augen sind größer als sein Mägen 直訳: 彼の目は胃よりも大きい。 意味: 食べきれないのに食べたいと欲を張る オランダ語 te veel hooi op de vork nemen 直訳: あまりにもたくさんの乾草を鋤で取る 意味: 手に余ることをする デンマーク語 slå større brød op end man kan bage 直訳: 焼くことができる以上に大きなパンを切る 意味: 手に余ることをする 今回は「噛む」について考察してみましょう。 {噛む」にあたる英語は, この慣用句にあるように, 大きく bite と chew の二つに分かれます。 前者は「ガブリと噛む」, 後者は「クチャクチャ噛む」つまり「咀嚼する」にあたります。 英語以外のヨーロッパの諸言語も下記のように, フィンランド語を除いて「ガブリ」と「クチャクチャ」の区別をしているようです。
韓国語も「ガブリ」は(ムルタ), 「クチャクチャ」は(ッシプタ)で, 中国語も「ガブリ」が「咬」, 「クチャクチャ」が「嚼」, アラビア語やヘブライ語も異なるようなので, 世界の主要言語の中で, 「ガブリと噛む」も「クチャクチャ噛む」も一つの語で表すのはどうやら日本語とフィンランド語だけのようです。 では, どうして日本語は「噛む」1語しかないのでしょうか。 米や魚や野菜を食べてきた日本人にとって噛み切りながら食べるという行為はあまり日常的ではありません。 だから,わざわざ2つの「噛む」を使い分ける必要がなかったのではないでしょうか。 一方パンをガブリ, 肉をガブリという具合に肉食とパンを主食にしている民族の場合, 噛み切るという行為が欠かせなく, それで2つの「噛む」が存在する― というのが私の考えなのですがどうでしょうか。 もっともフィンランド人はトナカイの肉を食べ, パンを主食としているのに「噛む」を一つで済ますのはなぜかというツッコミがあれば, 答えに窮してしまいますのであまり説得力のない説ではありますが。 ただ, 日本語が「噛む」一つであることに関連して, ちょっとした比較文化のテーマを提起することができます。 「口を開けて」に続く動詞を考えると何が思い浮かびますか。 「口を開けて笑う」「口を開けて眠る」「口を開けてテレビを見る」といったところではないでしょうか。 では英語の with one's mouth open 「口を開けて」と相性のいい動詞は何だと思われますか。 日本語から考えて laugh, sleep, watch あたりでしょうか。 "with * mouth open" でgoogle検索すると 116,000ヒットしました。 そのうち laugh with * mouth open は 400 ほど, sleep with * mouth open は 526程度でした。 ところが chew with * mouth open は 5,060もヒットしました。 つまり「口を開けてクチュクチュ噛む(咀嚼する)」がずば抜けて多いコロケーションなのです。 この 5,000 以上ある chew with * mouth open のほとんどは, 口を開けて物を咀嚼するのは無礼であるという内容の文章で使われています。 言いかえると, 英語圏では口を開けて物を食べる人が多いと言うことです。 では日本人はどうでしょうか。 「咀嚼する」をジェスチャーと音で表すとすると, おそらく大部分の日本人は口をつぼめて「モグモグ, クチュクチュ」とやるでしょう。 多くの日本人の遺伝子には, 麺類をズルズル音を立てて食べるが, 物は口を閉じて咀嚼するものだという情報が書かれているように思います。 I never thought it was rude to chew gum with your mouth open. 「口を開けてガムを噛むのが無礼だとは考えたことがなかった」という文をインターネットで見つけましたが, 多くの日本人には「口を開けてガムを噛む」行為は一種の芸当と思えるのではないでしょうか。 もっともこの芸当をいとも簡単にやってしまう人もいることはいますが。。。 |