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z035 (06月29日) have an axe to grind 「たくらみがある,下心がある」 直訳: 「研ぐための斧がある」 今回はやや長めです。 以下のことについて触れています。 1. この慣用句の起源 2. 英和辞典の定義 3. 英英辞典(サイト)の定義 4. ジーニアス英和辞典の用法注釈は正しいか 慣用句・ことわざの中には人によって意味の捉え方が異なるものがあります。 例えば日本語の慣用句なら「気がおけない」。 本来は「互いに気心が通じて心から打ち解けることのできる状態」という意味。 しかし逆に「気を許して付き合えない」と考えている人も多いようです。 これは意味の捉え方が異なっているというより, 誤っていると見た方がよいのでしょう。 が, よく言われるように言葉は生き物, そして「赤信号みんなで渡れば怖くない」で, 誤用がやがて正しくなってしまうこともあり得ます。 今回の have an axe to grind は人によって捉え方が違う, または意味が変化している慣用句のように思えます。 ![]() この慣用句の元はベンジャミン・フランクリンの創作話を引用したチャールズ・マイナ(Charles Miner 1780-1865)というジャーナリストの文章にあるようです。 ベンジャミン・フランクリンの話は, 斧を回転砥石(イメージ検索)で研ぐよう頼まれた少年が, 苦労したのにねぎらいの言葉すらもらえず, しかもこの仕事のために学校に遅刻して怒られた― という内容で, チャールズ・マイナはこの話を引用しながら, 彼が寄稿していた Wilkesbarre Gleaner紙への随筆(1811年)で以下の文章を書きました。 When I see a merchant over-polite to his customers, begging them to taste a little brandy and throwing half his goods on the counter,---thinks I, that man has an axe to grind. 「客に過度なほど礼儀正しい商人が, 「ちょっとブランディを味わってくださいまし」と彼らに頼みながら売りこむ商品の半分をカウンターにポンっと置くのをみると, こいつは研ぐ斧を持っているなと思うのである。」 これは随筆集 Essays from the Desk of Poor Robert the Scribe(1815) に収められている Who 'llTurn Grindstones 『誰が回転砥石を回すか』の一部です。 ![]() 上の文章は複数の引用サイトに掲載されているもので, ベンジャミン・フランクリンの話の部分とのつながりは不明です。 しかし, おそらく回転砥石で研ぐよう頼まれた少年が品物なり言葉なりで褒美を期待していた― ということに焦点を合わせ, have an axe to grind を「何か期待しているものがある, たくらみがある」という意味に持って行ったと想像がつきます。 だから have an axe to grind の意味として豊富な訳語に定評のある三省堂のグローバル英和辞典では「利己的なたくらみがある, 何か下心がある」と定義しているのでしょう。 他の英和辞典では小学館ライトハウス英和大辞典が「胸に一物ある,ひそかなたくらみがある,思惑がある(have a personal or selfish motive)。 例文: His interest in our venture cannot be sincere, because I know he has an ax to grind 「我々の冒険的事業に対する彼の関心は真剣なものであるはずがない。 なぜなら彼にはひそかにたくらみのあることがわかっているからだ。」 大修館ジーニアス英和辞典が「下心がある, 胸に一物がある」とありさらに[通例否定文で]とあります。 文法語法の説明に関しては定評のある辞典ですから, 他の辞書になくこの一言を入れてあるのはさすがですが, 本当に[通例否定文で]使うのでしょうか。 これに関しては調べてみました。 続きはここをクリック。 さて, これらの英和辞典の定義から表題の意味にしたのです。 が, ネイティブによる定義で見るとこのままで終わりにならない事態となりました。 ![]() 英英辞典の代表 Longman Dictionary of Contemporary English (LDOCE)の定義は to do or say something again and again because you want to persuade people to accept your ideas or beliefs 「自分の考えや信条を受け入れるよう人に説得したいために何度も何かをしたり言ったりすること」とあり, 例文として I have no political axe to grind とあります。 これは日本語の定義の「利己的なたくらみがある, 何か下心がある, 胸に一物ある」とはニュアンスが違うような気がします。 そこでオンラインの辞書サイトで調べてみました。 まず LDOCE と同じくイギリス英語の立場のサイト http://www.freesearch.co.uk to have a strong opinion about something, which you often try to persuade other people is correct: 「あることに強い意見を持っていて, しかもそれは正しいとしばしば他の人に説得しようとすること」 例文 Environmentalists have no political axe to grind - they just want to save the planet. これは LDOCE と例文も含めほぼ同じです。 次にアメリカ英語から http://www.usingenglish.com/ If you have an axe to grind with someone or about something, you have a grievance, a resentment and you want to get revenge or sort it out. 「もし誰かにもしくは何かについて have an axe to grind するとは, 不満・恨みがあって復讐するか片を付けたいと思っていることを意味する。」 次もアメリカ英語から http://www.goenglish.com ただしこちらは辞書サイトではないため読んでみればわかる通り, 同じことが何度も繰り返されていて今一つ要領を得ない感じがします。 ただ言いたいことは「ある人に怒りを感じ対決したり, 怒りのあまり熱のこもったった議論をしたり, 感じている怒りを伝えようとすること」となるでしょう。 そしてテーマ別に慣用句・熟語を分類している Themantic Dictionary of American Idioms (Richard A. Speears /NTC Publishing Group) では have an ax to grind は COMPLAINT「不満」の項に入っており, 定義は to have something to complain about 「何か不満がある」で例文は Bill and Bob went into the other room to argue. They had an ax to grind これらのアメリカ英語は, 自国で生まれたこの慣用句の元になった文章の中の意味とも,イギリス英語や日本語の訳とはだいぶ意味が違い「不満,恨み,怒り」が前面に出ています。 特に最後の Themantic Dictionary of American Idioms の例文からは「たくらみがある, 下心がある」という定義は思い浮かびません。 ついでに手元にある英蘭辞典で have an axe to grind を調べると een zelfzuchtige bijbedoeilng hebben とありました。 これを蘭英辞典で逆に英語にすると have a selfish ulterior motive 「利己的な隠れた動機を持つ」となります。 これは日本語の定義(特にグローバル英和)と同じです。 アメリカでは have an axe to grind が次回取り上げる予定の have a bone to pick with 〜 と混同してしまっているのではないか思えてしまいます。 (インターネットの用例を読んでみると特にそう思えてしまいます。) ともかく何かが変な, 納得の行かない慣用句です。 ![]() さてジーニアス英和辞典にあった[通例否定文で]という用法の注釈です。 こちらも何か納得の行かないところです。 本当に[通例否定文で]なのか手っ取り早くこれを調べるには google で肯定文と否定文を検索にかけ, そのヒット数を比べればよいと考えました。 その結果は以下の通り。
肯定文の方が2.5倍も多いのですから, have an axe(e) to grind にある[通例否定文で]という注釈はこの結果からは裏付けられません。 「文法語法のジーニアス」ですから, その記述に誤りはないはずですが。 意味が異なってきたのと同じく用法も時代によって異なってきたということでしょうか。 |