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090 (般) swallow 「つばめ」 古代ギリシャの哲学者アリストテレス(Aristotle 前384〜前322)はツバメが冬になるといなくなるのは木の洞か泥の中で冬眠しているからだと考えたとか。 そのアリストテレスが著した『ニコマコス倫理学』(Nicomachean Ethics 前325頃)という本の英語訳がインターネットで公開されています。 BOOK I の7の6段落目 にこんな文があります。 But we must add 'in a complete life.' For one swallow does not make a summer, nor does one day; and so too one day, or a short time, does not make a man blessed and happy. (Translated by W. D. Ross) しかし我々は「完全な暮らしにおいて」という言葉を付け足さなくてはいけない。 というのは1羽のツバメが来ても夏にはならないし, 一日で夏になるになることもない。 このようにまた1日もしくは短い時間で人は幸福にも幸運にもなりはしない。 この中の One swallow does not make a summer. 「1羽のツバメが来たとしても夏にはならない」 は長く人口に膾炙し「1つの証拠だけで主張の正しさは証明できない」とか「早合点は禁物」という意味の諺として定着しています。 しかし原文のギリシャ語ではこの部分は「夏」ではなく「春」になっています。 そしてこれを踏まえたラテン語の諺 Una hirundo non facit ver も「春」になっています。 この部分は英語以外のヨーロッパ諸語でも諺となって借用されているので, ここで一覧を作ってみることにしましょう。
このように春と夏の2つの季節の到来の象徴となっているのは単純にどちらの季節にツバメが姿を表すかを示しているのだと思います。 たとえばイタリアの代表的な新聞コッリエーレ・デッラ・セーラ(Corriere della Sera) の子供向けサイトに「この非常に美しい渡り鳥はふつう春の初めに我が国で暮らし始めます。 ここで巣作りをして繁殖し秋のはじめにかけてアフリカやインドや中国やフィリピンの暖かい地方へ移動するために群れを作ります。」と書いてあります。 英語の古典でツバメが出てくるものと言えばオスカー・ワイルド(Oscar Wilde) の「幸福の王子(The Happy Prince)」です。 仲間と一緒にエジプトに帰らなかったツバメが, 像である Happy Prince の言われるまま不幸な人々への使いとして仕えるうちに渡りをする時機を逸して死んでしまうという話です。 原文(全文) この話ではツバメは, いつ渡って来たのでしょうか。 ツバメが登場する場面にはこう書いてあります。 One night there flew over the city a little Swallow. His friends had gone away to Egypt six weeks before, but he had stayed behind, for he was in love with the most beautiful Reed. He had met her early in the spring as he was flying down the river after a big yellow moth.... ある夜, その町の上空を小さなツバメが飛びました。 彼の仲間は6週間前にエジプトに去って行ったのに, ツバメは残ったのです。 というのは最高に美しい葦に恋したからでした。 まだ春早い頃, 大きな黄色い蛾を追って川に下りたとき彼女と会ったのでした ― イギリス人のオスカー・ワイルドはこの童話の舞台をヨーロッパの北の町に設定し, ツバメが春やって来るものとしています。 イギリスではツバメは夏の到来を告げる鳥ですが, 春にやってくるものとしたことで読者に異国の話という印象を与えたのが, かえってイギリス社会を暗に批判しているという印象を強く持たせる効果があるように思えます。 なおツバメの swallow と「飲みこむ」の swallow は関係はないようです。 ツバメの swallow はゲルマン諸語共通の語源 *swalwon からできていますが, その意味は何であるかは不明です。 イタリア語, フランス語などロマンス諸語の場合はラテン語の hidundo さらにギリシャ語の chelidon に由来し, これは「つかむ」という意味の印欧祖語 * ghar-, har- があることから「(エサを)つかむもの」という意味と推定されているようです。 |
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