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ウェールズ語学習者向けサイドリーダ その1 Bywyd Blodwen Jones(Bethan Gwanas)
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ウェールズ語などというちょっとレアな言語で書かれた本を読むなんてオシャレじゃないですか? 


ということでこのページでは現代ウェールズ語の代表的な女流エンターテインメント作家であり, 脚本家である Bethan Gwanas (ベサン・グアナス)がウェールズ語学習者のために書いた小説, Bywyd Blodwen Jones (直訳『ブロードウエン・ジョーンズの生活』)を紹介してます。 


                   




さてこの本, 見てわかるとおり片手に収まる文庫本サイズの, 70ページ程度の小さな本です。 厚くないのも読書の達成感を学習者に持たせてくれてよいです。


2009年1月現在, 絶版のようで手に入るのは古本や新古本だけのようです。 したがって日本やアメリカ, イギリスのアマゾンではマーケットプレイスのみが扱っています。 私はイギリスのアマゾンのマーケットプレイスで10ポンド(本=3ポンド 送料手数料=7ポンド)約1,340円で買いました。 図書館にあった本とかで図書館の印があった最初のページが破られていましたがそれ以外は書き込みもなくきれいな状態でした。 


その後, イギリスのアマゾンに行って見ると67.95ポンド とか 140.7ポンドというべらぼうに高い値が付いて売られていました。 私が買ったときの22倍から46倍の値段です。 日本のアマゾンのマーケットプレイスでなんと中古で 4,175円という超高値で売っていました。 そんな大金を払ってまでも買う本ではありませんが, もし機会があって手ごろな価格で手に入るのなら買って損はしません。  


イギリスのアマゾンの検索結果
日本のアマゾンの検索結果
アメリカのアマゾンの検索結果
Abebooks の検索結果
Alibris の検索結果


上記以外に Welsh Books Councilオンラインショップ から買うこともできます。 ただこのショップの場合, 送料がいくらになるか注文した後でないとわかりません。 途中で surface mail (船便)にするか airmail (航空便)にするか選択が出ますが, どれくらい金額に差があるのかわからないのです。 安くあげるなら船便を選択しておくとよいでしょう。 ただし品物が届くまで1ヶ月以上かかります。



                   


【内容について】


主人公の Blodwen Jones は図書館司書をしている38歳の独身女性。 趣味は読書とウェールズ語の勉強で, 毎週月曜日と水曜日の夜, ウェールズ語の講習に出かけます。  それはウェールズ語の勉強のためだけではありません。  ウェールズ語の先生でバツイチの Llew Morgan に会うためでもあるのです。  おそらくこの二人の名前はケルト神話(マビノギオン)の登場人物の Blodeuwedd と Lleu に因んでいるのでしょう。  この Blodeuwedd については次のページに記しました。


この先生の勧めで書き始めたウェールズ語での日記の体裁で,  彼女の周辺にいる人々や動物 ― ウェールズ語のクラスの生徒で Blodwen に気がある(?) Andrew,  図書館の館長でウェールズ人であることを誇りに思っている Mr.Edwards,  職場の同僚で Blodwen とは肌が合わない Gwen , 愛猫 HRH, そして食欲の盛んなヤギのBlodeuwedd ―  などとの交流を織り交ぜて話は進みます。 


日記なのでいくつかのエピソードがあるのですが, それが伏線となって絡み合い全体が出来上がっています(表紙の絵も伏線になっていると言えます)。 ですから飛ばし飛ばし読まずに, 最初から日を追って読んでいくことをお勧めします。


                   


【文章のレベルと文体について】


この本はウェールズ語学習者向けに書かれています。 そのため, 一部の単語にはページの下に語注がついています。 しかし辞書(たとえば別ページで紹介したもの)にも出ていない語が若干あります。 そのような語を除けば, 日常的な語・基本的な語が使われているように思えます。


文法について。 時制は conditional を含みます。 接続詞や関係詞を使って名詞節, 形容詞節,副詞節を作る文は頻繁に出てきます。 ですからウェールズ語の文法の一通りの知識が要求されます。 ただ読むだけのための文法でしたら, 非常に細かく文法を把握していなくてもなんとかなります。 


注意すべきなのは, くだけた口語体を使っているため, Cymraeg Byw (Living Welsh) と言われる口語ウェールズ語と文章ウェールズ語を合体させた人工ウェールズ語しか知らない場合は, 面食らう可能性があります。 たとえば『毎日ウェールズ語を話そう』でウェールズ語を勉強した場合です。  英語の I am にあたる bod の第一人称単数現在形は Rydw i ではなく Dw i ですし, I were にあたる第一人称単数半過去は Roeddwn i ではなく Ro'n i です。 この否定形も Doeddwn i ddim ではなく do'n  i ddim です。  もっとも I am going to を I'm gonna を表すようなものでそんなに神経質になる必要はないでしょう。 Cymraeg Byw と現在主流になっている口語体の違いはその程度のものです。


もう一つ文体で注意するのは北部方言で書かれていることです。 そのため「彼」は e (fe) ではなく o (fo)になります。  英語の with にあたる前置詞は gyda ではなく efo を使っています。  単語については語注で北部方言であることを記してあります。 

具体的にこの本で使われている北部方言での bod の直説法現在と半過去を表すと以下のようになります。 
直説法現在肯定形 直説法半過去肯定形
単数 複数 単数 複数
第1人称 dw i dan ni ro'n i ro'n ni
第2人称 rwyt ti dach chi ro't ti ro'ch chi
第3人称 mae o
mae hi
maen nhw roedd o
roedd hi
ro'n nhw
直説法現在否定形 直説法半過去否定形
単数 複数 単数 複数
第1人称 dw i ddim dan ni ddim do'n i ddim do'n ni ddim
第2人称 dwyt ti ddim dach chi ddim do't ti ddim do'ch chi ddim
第3人称 dydy o ddim
dydy hi ddim
dydyn nhw ddim doedd o ddim
doedd hi ddim
do'n nhw ddim
直説法現在疑問形 直説法半過去疑問形
単数 複数 単数 複数
第1人称 ydw i (y)dan ni o'n i o'n ni
第2人称 wyt ti (y)dach chi o't ti o'ch chi
第3人称 ydy o
ydy hi
(y)dyn nhw oedd o
oedd hi
o'n nhw



                   


【作者の文章の特徴について】


Wikipedia の Bethan Gwanas の項に She is known for her informal style of writing, and her adult novels often contain sexual elements not normally associated with Welsh literature (くだけたスタイルの筆致で知られており成人向けの小説にはウェールズ文学からはふつう連想されない, 性的な要素がしばしば含まれる)と言う一文があります。 なるほど, 今回取り上げた Bywyd Blodwen Jones にも言えていると思いました。


ウェールズ語は口語体と文語体の差が大きい言語ですが, この小説は完全な口語ウェールズ語(北部方言)で書かれています。 日記ということで地の文にあたるところも凝った文章的書き方というより, 日常の口語体をそのまま書き記している感じです。 ですからウェールズ語の日常用語を増やしたり会話に役立てたりすることもできます。 


また上記の Wikipedia の記述にあるように, 確かにちょっとエッチなことも書かれています。  語学のサイドリーダというと子供向けの話になりがちですが, この本は違います。   たとえば図書館の返却本にコンドームがしおり代わりに挟んである話とか pecyn 「一袋」の aspirate mutation の形 phecynの発音[フェッキン]を英語の f**king とかけた笑い話などが出てきます。 ラブシーンになりそうな場面もあります。  このあたりはエンターテインメント作家の面目躍如と言ったところでしょうか。



                   


【まとめ】


この本は文法書や語学書では味わえない, 外国語の原文を読む楽しみを学習者に与えてくれる良書だと思います。  優れているサイドリーダは学習者に辞書を引き引き先を読みたくさせます。 まさにこの本はそうなのです。 これは作者の Bethan Gwanas がテレビドラマの脚本家であることと関係があるでしょう。 基調はコメディタッチ。 しかしある時はウェールズ文化への誇りを喚起したり, ある時はちょっとホロリとさせたりと, 話に起伏を持たせています。 そして活字から場面がテレビドラマを見ているように生き生きと思い浮かびます。 


日本語を介することなく外国語から情景や登場人物の心情を読み取る− 原書で小説を読む楽しみは, これですね。  そんなことをウェールズ語でもできる喜び。 もっとウェールズ語の勉強をしたい, もっとウェールズ語で小説・物語を読んでみたい。 そんな気にさせられた本でした。


なおこれは3部作で 2001年発行の Blodwen Jones a'r Aderyn Prin (直訳『ブロードウエン・ジョーンズと珍鳥』) そして2003年発行の Tri Chynnig i Blodwen Jones (直訳『ブロードウエン・ジョーンズへの3つのプロポーズ』と続きがあります。


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【おまけ - 出版社への苦言】


以上, この本を大絶賛したのですが, 一つ気に食わないことがあります。 
それは出版元の Gomer という出版社についてなのです。 


私ははじめ, この出版社のホームページを見てオンラインで注文しました。 注文後届いたメールには International orders are sent by air mail and can take from up to two weeks (North America) to three weeks (Australia). と書かれていました。 航空便でイギリスからオーストラリアまで3週間もかかるというのは解せないと思いつつ, 品物が到着するのを待ちました。 しかし1ヶ月経っても2ヶ月経っても届きません。 それでこの出版社に問い合わせのメールを出したのですがまったくの無視。 別のアドレスに出しても無視。 数週間後にまた出しても無視。


今まで100回くらいオンラインで海外に本やCDを注文していて, 品物がいつまで経っても届かなかったことが数回あります。 しかし問い合わせのメールを出せばとりあえず返事はよこしました。 今回のようにまったく無視されたのは初めてです。  


焦りが日々募りましたがどう解決したらいいかわかりません。 それとともに Gomer というウェールズの出版社の不誠実さに怒りが増してきました。何か解決策を求め, そして Gomer の行為を知ってもらうため, イギリスの「教えてgoo」「YAHOO 知恵袋」にあたる The Answer Bank という Q&Aサイトに投稿しました。 (ここをクリック) 


結局, この回答にあったようにクレジット会社に調査を依頼した結果, 返金に応じて一件落着となりましたが, Gomer に対するわだかまりは消えそうもありません。 この出版社が多くのウェールズ語の本を出しているだけに, これからもウェールズ語の本を読みたいと思っていた私は, Gomer の態度が残念でなりません。
 

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(注) このコンテンツの作成者はウェールズ語の独学者であり専門家ではありません。