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ウェールズ語はなぜおもしろいのか なぜ難しいのか  〜文法概略

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私は外国語の勉強が好きな「外国語マニア」です(英語のページ, イタリア語のページ, デンマーク語のページ, アイスランド語のページ)。 この言語はどんな言語なのだろうとわくわくしながら未知の言語をいろいろ齧って来たのですが, ヨーロッパの主要語族であるロマンス語族, ゲルマン語族, スラブ語族の言語を一つか二つ知るとそのような「わくわく感」, 言い換えると外国語を勉強する「感動」のようなものがなくなることに気づいています。 それは語順, 時制, 格, 性, 法, 態, 節・句などに注目し, 他の言語との類似点・相違点を探ればこれらの語族の言語の全体像は見えてくるし, 究極的にこれらの言語の間に大きな違いがないという自分なりの「悟り」に行き着くからです。


そんな外国語マニアにはウェールズ語は興味深い言語です。  ウェールズ語やゲール語などケルト語族の場合も印欧語ですから語順, 時制, 格, 性, 法, 態, 節・句などが重点的な文法事項であることに変わりはありません。 しかし他の語族にない特徴も見られます。 たとえば VSO型の語順, 緩音現象(mutation), 虚辞(expletive) の多用, 迂言的構造(periphrastic construction)と屈折的構造(inflected construction)による時制の表示, 複数ある繋辞(copular),  前置詞と人称の結合形などがそれで, これらは他の語族にまったくないものではありませんが, ケルト語族では「目立つ」文法現象であり, これらの理解・習得に特別の配慮が必要になります。


勉強している言語の文法現象が特徴的であるほど言語の習得が容易でなくなりますが, それは裏返せば学習に新鮮な驚きを与え, また学習意欲と達成感をもたらすものでもあります。 ウェールズ語のおもしろさもそこにあります。




                   


どこか奇妙なウェールズ語。 もちろん現代のウェールズ語は, 遠い昔ローマ人が征服する前のブリテン島で話されていたウェールズ語とは大いに異なるでしょう。 でもこの不思議な文法と発音の体系は古代から生き延びている言語らしい雰囲気を醸し出しています。  文字ヅラもどことなく古い言語らしい感じを髣髴させます。 たとえば騎士道叙事詩『マビノギオン』の原文を見ると。 いやこれは単純に何と書いてあるかわからないことから来る神秘性からなのでしょうけれど。



ここで, この言語を興味深くしつつ, また習得を難しくしているウェールズ語の独自性について独学者の目から触れてみたいと思います。  ただし私は実際に教育機関でウェールズ語を教わったのではなくここで書かれているのは文献からの知識ですので文法の記述内容に誤りがある可能性もあります。 その際はご指摘いただければ幸いです。 なおこれらの文献では記述内容が異なるところがいくつか見られます。 時制や関係代名詞の項にそれを記しました。 


                   


まず導入編。
英語で「私はその少女の姿を見かけない」なら I don't see the girl.
これを過去形にすなら don't を didn't にして I didn't see the girl. にすればいいのですから簡単です。 ところがウェールズ語は違います。


現在形「私はその少女の姿を見かけない」    Dw i ddim yn gweld y ferch.
過去形「私はその少女の姿を見かけなかった」 Weles i mo'r ferch. 


dw i は英語の I am にあたります。 ddim は not 。 yn は英語の in にあたりますがここでは動名詞が続くことを示す虚辞の働きをしています。 gweld は「見る(see)」の動名詞の形。 y は定冠詞。 ferch は「少女」です。 強いて英語に直訳すると *I am not in watching the girl. となります。


過去形の場合を見てみましょう。
Weles は gweld の第1人称単数の過去形。  dw i と同じく動詞と主語が倒置されるので強いて英語で表せば Saw I となります。 mo'r は否定の ddim と定冠詞 y がくっついた形です。 つまり英語で書けば not the にあたりますが, これを ddim y とすることはできず mo'r とするのです。 なお 'r は定冠詞 y の前に母音があるときの形です。 強いて英語に直訳すると *Saw I not the girl. となります。


では定冠詞ではなく不定冠詞を使う場合はどうなるでしょう。 英語なら単純に the を a に変えて
I don't see a girl.
I didn't see a girl.
とすればよいです。 ウェールズ語の場合はこうなります。


Dw i ddim yn gweld merch.
Weles i ddim merch.


ウェールズ語は不定冠詞がありません。 だから y を取ればいいのです。 したがって過去形の否定形の mo'r は ddim になっています。 


さてもう一つ注目しなくてはいけないことがあります。 それは ferch が merch に変わっていることです。  これは女性名詞の単数形は定冠詞が付くと soft mutation (軟音化)するという規則があるからです。 つまり merch が元の形(辞書の形)で ferch の方が変化した形だったのです。  なお複数形の場合は soft mutation はしません。 この辺りをまとめてみると以下のようになります。
 

      girl    merch
a    girl   merch
the girl y ferch
     girls   merched
the girls y merched


ここで現在形,過去形, 肯定形,否定形,単数形,複数形, 冠詞 の比較ができるように文にして, 英語とウェールズ語を並べてみます。 ついでに名詞を人称代名詞にした場合も載せてみました。 英語がいかに単純でウェールズ語が何と複雑なのかおわかりいただけるでしょう。

I see a girl. Dw i'n gweld merch.
I saw a girl. (Fe) weles i merch.
I don't see a girl. Dw i ddim yn gweld merch.
I didn't see a girl. Weles i ddim merch.
I see the girl. Dw i'n gweld y ferch.
I saw the girl. (Fe) weles i'r ferch.
I don't see the girl. Dw i ddim yn gweld y ferch.
I didn't see the girl. Weles i mo'r ferch.
I see girls. Dw i'n gweld merched.
I saw girls. (Fe) weles i merched.
I don't see girls. Dw i ddim yn gweld merched.
I didn't see girls. Weles i ddim merched.
I see the girls. Dw i'n gweld y merched.
I saw the girls. (Fe) weles i merched.
I don't see the girls. Dw i ddim yn gweld y merched.
I didn't see the girls. Weles i mo'r merched.
I see her. Dw i'n ei gweld hi.
I saw her. (Fe) weles i hi.
I don't see her. Dw i ddim yn ei gweld hi.
I didn't see her. Weles i mohoni hi.
I see them. Dw i'n eu gweld nhw.
I saw them. (Fe) weles i nhw.
I don't see them. Dw i ddim yn eu gweld nhw.
I didn't see them. Weles i mohonyn nhw.
Fe は肯定形であることを示す虚辞。 主に南部で使い北部では Mi を使うことが多いようです。 ただどちらも省略されることも多いようです。
人称代名詞の目的格は動名詞の場合は所有格と同じで動名詞を修飾するような形を取ります。 また mo'r と同じく否定形の場合別の形になります。 



さてもう少し詳しくそれでも簡単に以下の事項について触れておきます。


緩音現象
文構造
名詞
人称代名詞
形容詞
動詞
複文
機能語および虚字
単語


                   


緩音現象(mutation):
ケルト語族の特徴の一つ。 ある条件になると語頭の音が変化することです。 
軟音化(soft mutation), 鼻音化(nasal mutation),  帯気音化(aspirate mutation) の3つのタイプがありますが, ほとんどが軟音化で, 鼻音化や帯気音化するケースは少ないようです。

語頭の文字 軟音化
soft mutation
鼻音化
nasal mutation
帯気音化 
aspirate mutation
c [k] g [g] ngh [h] ch [x]
p [p] b [b] mh [mh] ph [f]
t [t] d [d] nh [nh] th []
g [g] 消失 ng [] -
b [b] f [v] m [m] -
d [d] dd [ð] n [n] -
ll [] l [l] - -
m [m] f [v] - -
rh [] r [r] - -


どういう条件のときに緩音現象が起こるかはここでは書きませんが, 例として car 「車」に人称形容詞がついた場合を見てみましょう。 なお car はウェールズ語の親戚のゲール語の「2輪戦車(chariot)」を意味する karros から英語に入ったと言われています。
私の車  (fy/'y) nghar i
君の車   dy gar di
彼の車   ei gar e
彼女の車  ei char hi
私たちの車  ein car ni
あなたのたちの車※ eich car chi
彼らの車  eu car nhw
彼女らの車  eu car nhw
※2人称複数形はフランス語と同じく「君たち」「あなたたち」以外に丁寧な「あなた」も意味します。
■緩音現象をマスターすることはケルト語族の勉強には避けて通れません。 と言ってもこちらから伝える分には変に聞こえても意味は通じるようなので暢気に構えています。 そもそも発音を聞いても速くて[t]と[d], [b]と[v]の区別など気にしているゆとりはありません。 私にとって緩音現象は辞書を引く際, 見出し語が何なのかを知るために必要な知識なだけです。


■また緩音現象は現地の人々の中でも揺れているところがあるらしいです。 
Modern Welsh(Gareth King) の Mutations in Welsh の項に THE WORDS THAT CANNOT UNDERGO MUTATION 「緩音現象を受けない語」というのがあり, そこに雑多な語として dy, pan, mae, mai, taw, mor, tua, byth, lle  をあげています。 
(注) Teach Yourself Welsh Grammar (Christine Jones) にも同じく緩音現象を受けない雑多な語として  pan, mae, mor, tua, byth, lle をあげています。


しかし私はこれらの中で「〜するとき」を意味する pan は, 帯気音化させる接続詞 a との組み合わせで a phan 「そして〜するとき」という形をしばしば見ていました。  試しに google で "a phan", mae'r として検索するとかなりの使用例が見つかります。 (ここで "a phan だけにせずに mae'r を添えて検索したのは, a phan だけではウェールズ語以外の言語のものもヒットしてしまうため mae'r  を添えることでウェールズ語に限定したためです)


一方, 上記の文法書の記述に従えば pan は緩音現象を受けないので a pan となるはずですから, これも "a pan" mae'r として検索するとやはり文例が見つかります。 しかし明らかに a phan よりも少ないことがわかります。 


では軟音化の場合はどうでしょうか。 接続詞 pan を軟音化する例として dyna 「ここに〜がある」との組み合わせが考えられます。 つまり dyma pan 〜 「ここに〜するときがある」 というフレーズです。 ここで google で軟音化した場合の dyma ban としない場合の dyma pan で検索してみます。 "dyma ban" mae で検索すると 一つもヒットしません。 一方 "dyma pan" maeで検索すると少ないながらも文例が出てきます。  


以上のことはどう説明がつくのでしょうか。


これには Modern Wlesh Dictonary (Gareth King) にヒントがあるように思えます。 この辞書の接続詞 a の項に『規範文法では  a は 次にくる語を帯気音化するとあるが, これは c- で始まる語だけに言えることで t- や p- で始まる語は halen a phupur 「塩と胡椒」のような決まり表現以外では帯気音化しない』 という趣旨のことが書かれています。 ここから推測するのは a phan とするのは規範文法的な処理で, 実際の発音は a pan としているのではないかということです。


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構造
1.基本的な語順はVS+α。 
英語の5文型との比較
英語 ウェールズ語
SV I went to Cardiff yesterday. VS Es i i Gaerdydd ddoe.
SVC Everything looks good.
VS yn C(=形容詞・名詞)
Mae popeth yn edrych yn iawn.
I am a Japanese. C(=名詞)VS Japanead dw i.
SVO The students will learn Welsh. VSO Dysgith y myfyrwyr Gymraeg.
SVOO He gave me five pounds. VSO i O Rhoddodd e bum punt i fi.
SVOC They call New York Efrog Newydd. VSO yn C Maen nhw'n galw New York yn Efrog Newydd.


2.ウェールズ語は時制によって迂言文か屈折文のどちらかになる。 英語の Be動詞にあたる bod の活用形を助動詞とし, 本動詞を動名詞とするのが迂言文(periphrastic sentence)で, bod を使わず本動詞の活用形を使う屈折文(inflected sentence)である。 上記の表の例文の場合,水色のセルの文が迂言文緑色のセルの文が屈折文
■英語の習いたてのころ, be動詞を使う文と一般動詞を使う文の二つに分かれることを教わりますが, それと感じが似ています。 すなわち be動詞を使う文が迂言文で一般動詞を使う文が屈折文という感じがします。 しかし根本的に違うのは迂言文と屈折文は時制によって決まる点です。 英語で単純現在形に対してam/is/are+現在分詞による現在進行形があることに相当します。


3. 肯定形(affirmative),  疑問形(interrogative), 否定形(negative) がある。
例: bod の3人称単数現在形
肯定形: Mae hi'n siarad Cymraeg.  彼はウェールズ語を話す。
疑問形: Ydy hi'n siarad Cymraeg?  彼はウェールズ語を話すか。
否定形: Dydy hi ddim siarad Cymraeg.  彼はウェールズ語を話さない。
■これも英語の習いたてのころを思い出させます。 主語と動詞をひっくり返したり, 肯定文の語尾を上げ調子にすれば疑問文ができる他の印欧語から見ると面倒くさい感じがします。


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詞: 
1.男性名詞と女性名詞に分かれる。 どちらの名詞なのかは語尾で推測できる場合もあるが個々に暗記する必要がある。 女性名詞は冠詞をつけると緩音化し, また修飾している形容詞も緩音化する。 
■性の区別をつけるはこの点だけのためにだけあるように思えます。  緩音化を無視しても話は通じるらしいので性の区別をつけることに神経質になりすぎる必要はないように思えます。


2.複数形は語尾変化するもの, 母音変化するもの, その両方などいくつかのパターンに分かれる。 複数を表す語尾も -au, -iau, -on, -ion, -i, -edd, -oedd, -ydd, -ed, -iaid, -od, -aint などバリエションが多く, 結局個々に覚えるしかない。
■複数形は語尾に -s か -es を付けるなどとのんきなことは言えません。 性の区別よりもこちらの方が深刻な課題です。  


3.格変化しない。 英語ですらある所有格もない。
■これは学習者に楽に見えます。 しかし「入門は難しいが後は易しくなる」と言われるスラブ諸語の裏返しで, 格変化がないのは入門時には都合がいいのですが, 後で苦労する原因になるように思えます。 格変化がないと語と語のつながりが非常にわかりづらくなるのです。 
所有格がないので修飾する名詞を後ろにただ置くだけです。 
例:cyfarwddwr cwmni cynhyrchu driliau o'r enw Grunnings
これは Harry Potter And The Philoshopher's Stone のウェールズ語訳からの引用で原文の英語は the director of a firm called Grunnings, which made drills  となっています。 ウェールズ語の語注をつけると cyfarwddwr = director,  cwmni = company,  cynhyrchu = produce の動名詞, drilliau = drills,  enw = name ここでは o'r enw 〜 で called 〜と同じ。 
英語が前置詞 of や過去分詞 called や関係代名詞 which で修飾関係をはっきりさせているのに対しウェールズ語は単語をポンポン置いているだけです。


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称代名詞:
1.英語をはじめ多くの印欧語のような単純な格変化がなく代わりにバリエーションが多い。


2.同じ人称代名詞が主格と目的格, 所有格と目的格を兼ねる。 屈折文の場合, 人称代名詞を動詞の目的語とするときは, その人称代名詞は主格を使い, 迂言文の場合, 人称代名詞を動詞の目的語とするときは, その人称代名詞は所有格を使う(同じ現象を人称代名詞の所有格ではなく所有形容詞を使うと説明する学者もいる)


3.フランス語と同じく2人称複数形は「君たち」「あなたたち」以外に丁寧な「あなた」も意味する。
dependent form
. 1 1のformal な形 2 ※ 3
第1人称
単数
i
fi
ef fy
'm
第2人称
単数
ti/di 同左 dy
'th
第3人称
単数(男性)
fe/e(南部)
fo/o(北部)
同左 ei
'i / 'w
第3人称
単数(女性)
hi 同左 ei 'i / 'w
第1人称
複数
ni 同左 ein 'n
第2人称
複数
chi chwi eich 'ch
第3人称
複数
nhw hwy eu 'u / 'w
1= auxiliary pronouns 主格・目的格
    迂言文の主語; 活用する前置詞の目的語; prefixed pronounsに限定される名詞の後
2=prefixed pronouns 所有格・目的格 ※代名詞ではなく所有形容詞とする場合もある.
    名詞の前に置き所有を表す; 迂言文の動名詞の前に置き目的語を表す
3=infixed pronounds  所有格・目的格
  母音で終わる前置詞の後に 2 の代わりに使う; 関係代名詞 a や fe, ni, na などの小辞,接続詞 oni などの後に動詞の目的語が来る場合に使う

independent form
. 1 1のformal な形 2 2のformal な形 3 3のformal な形
第1人称
単数
fi(南部)
mi(北部)
ef y fi
myfi finnau
minnau(北部)
同左
第2人称
単数
ti 同左 y di
tydi tithau 同左
第3人称
単数(男性)
fe/e(南部)
fo/o(北部)
同左 y fe/y fo
efe/efô yntau 同左
第3人称
単数(女性)
hi 同左 y hi hyhi hithau 同左
第1人称
複数
ni 同左 y ni nyni ninnau 同左
第2人称
複数
chi chwi y chi chwychwi chithau chwithau
第3人称
複数
nhw hwy y nhw hwynt-hwy nhwthau hwythau
1= simple form  主格・目的格
    動詞を伴わない場合; 強調構文; 接続詞の後; 活用しない前置詞の後; 屈折文の目的語
2= reduplicated form  主格・目的格
   1よりも強意。
3= conjunctive form 主格・目的格
     強調, 対比など
■ 微妙な違いのバリエーションが多いのがウェールズ語の困ったところ。 この人称代名詞の場合も同じです。 しかし実際は下の dependent form の1,2,3とindependent form の1がよく見かける形で, しかも dependent form と independent form の1はほとんど同じですから, もっと単純な体系となりそうです。


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容詞
1.単数形の女性名詞を限定するときは軟音化する。


2.少数の形容詞は男性形と女性形がある。


3. いくつかの形容詞は複数形がある。


4.原級,比較級,最上級の3つの級がある。


5.原則的に名詞を修飾するときは後置修飾。  前置修飾するものや, 後置と前置で意味が異なるものもある。


■ 名詞と同様格変化がないのは救われます。 しかしこれも語句の塊・区切り・つながりを捉える際にはマイナスの要因になります。


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1.主語の人称によって変化する。


2.動名詞が辞書の見出し語。 英語の原形にあたるが完全名詞の働きもする。  英語と同じようにこれは前置詞の目的語になる。 (例:Ar ôl gadael ei swydd = after leaving her job)  ウェールズ語の動名詞を英語にあてはめると英語の他の準動詞の役目を果たすときがあることがわかる。
● 英語の目的をあらわす不定詞は i + 動名詞 で表す。 (例:Mae hi'n mynd i archfarchnad i brynu bwyd. = She goes to the supermarket to buy food) 
●付帯状況の分詞構文は gan + 動名詞 や yn +動名詞 で表す。(例:"Rhys' gwaeddodd hi gan redeg at ei mab. = "Rhys" she shouted, running to her son.・/Sefyll mewn cylch yn gwynebu ei gilydd. = Stand up in the circle, facing each other. )
●過去分詞の形容詞的用法は単数名詞+wedi'i+動名詞 (男性名詞を修飾するときは動名詞は軟音化し女性名詞を修飾するときは動名詞は帯気音化 例: llythyr wedi'i sgrifennu yn Japanaeg = a letter written in Japanese) 複数名詞+wedi'u+動名詞 (例:bwyddydd wedi'u rhewi  = frozen foods)で表す。 
●現在分詞の形容詞的用法は yn + 動名詞 で表す。 (例: cath yn edrych ar bysgodyn= cat watching a fish)
現在分詞の形容詞的用法は関係代名詞で表すこともできる。 (例: person sy’n dal y bel = a person holding a ball)


3.時制によって変化する。


■困ったことにウェールズ語の時制は語学書によって取り上げられていたりいなかったりする上, 英語による用語名がまちまちです。 


たとえば二つある未来を Gareth King は future I と future II とし T.J. Rhys Jones はsimple future と colored future とし, 『毎日ウェールズ語を話そう』では「動詞的名詞の未来形」と「BOD 未来形」と称しています。  


また preterite について Gareth King は屈折的構造の preterite と動詞 gwneud を助動詞的に使って作る preterite にわけ, 前者を preterite I, 後者を preterite II としています。  一方, Christine Jones と John T.Bowen はgwneud を助動詞的に使う preterite は扱わず, その代わり屈折的構造の preterite と迂言的構造の perterite を扱っています。 (Gareth King は preterite を迂言的構造のない唯一の時制とし,  迂言的構造の perterite は載せていません)


そこで下の表では複数の用語名が並ぶことになりました。 日本語については『毎日ウェールズ語を話そう』のものを使いましたが, この本が下のすべての時制に触れていないため, 日本語による用語がないものがあります。
ウェールズ語の時制 (工事中)
「彼は学ぶ」の時制による変化   上段は口語 下段は文章語
 上記の注参照 迂言的構造
(periphrastic)
屈折的構造
(inflected)
相当する英語
present
現在
mae e'n dysgu . he learns; he is learning
■ 現在形と現在進行形を含む。
y mae ef yn dysgu
imperfect
未完了過去
roedd e'n dysgu . he was learning
■ ロマンス諸語の線過去に相当。
yr oedd ef yn dsygu
past
habitual past
過去
dysgai fe he used to learn
■ 過去の習慣を表す。
dysgai
past
preterite
過去
. dysgodd e he learned
■ ロマンス諸語の点過去に相当。
dysgodd
past
preterite
過去
buodd e'n dysgu he learned
■※(注1)
bu ef yn dysgu
future I
simple future
未来
dysgith e
dysgiff e
(南部の一部
he will learn
■ 近い未来を表す。
dysg he learns; he will learn
■ 文章語では現在も表す。
future II
colored future
未来

bydd e'n dysgu . he will learn;
he learns regularly
■遠い未来を表す。
■行動の定期性を表す。
bydd ef yn dysgu
present perfect
現在完了
mae e wedi dysgu . he has learned
■※(注2)
y mae ef wedi dysgu
pluperfect
過去完了
roedd e wedi dysgu . he had learned
dysgasai
未来完了 bydd e wedi dysgu . he will have learned
bydd ef wedi dysgu

conditional
imperfect habitual
習慣・条件

byddai fe'n dysgu
bydde fe'n dysgu
basai fe'n dysgu
など変種多数。
. he would learn; he used to learn
■※(注3)
byddai ef yn dysgu
conditional perfect basai fe wedi dysgu . he would have learned
※(注1) Gareth King の Modern Welsh や Basic Welsh, Intermediate Welsh には記述がありません。  Christine Jones の Teach Yourself Welsh Grammar と John T.Bowen の Teach Yourself Welsh には記述があります。 特に後者はこの時制を The verb in this tense often refers to an extent or period of time that is over an done with, completed, and is often connected with a place と説明し Bu ef yn canu yn Neuadd Albert (He sang in the Albert Hall but now his voice is gone!) という例文を挙げています。 さらに There is a growing tendency, especially in spoken Welsh, to use this tense as an auxiliary to express the preterite.  とあります。 John T.Bowen の Teach Yourself Welsh は1960年出版ですから当時だけの a growing tendency だったのでしょうか。 


※(注2) 英語の現在完了の諸用法をウェールズ語でどう表すのか調べて見ました。
  ちょうど〜したところ 
  Mae'r ferch newydd ddarllen y llyfr 少女はちょうど本を読んだところだ。
  すでに〜した 
  Maen nhw wedi mynd yn barod. 彼らはすでに行ってしまった。
  もう〜したか
  Ydyn nhw wedi cyrraed eto? 彼らはもう到着したか。
  まだ〜していない
   Dw i ddim wedi gweld y ffilm 'na eto  まだその映画は見ていない。
  一度〜したことがある
  Dw i wedi dweud wrtho unwaith.  私は彼に一度言ったことがある。
   〜したことがあるか 
  Fuoch chi erioed yn Iwerddon? あなたはアイルランドに行ったことがるか。
  〜したことがない
  Weles i erioed y fath llanast.  私は今までにこんな散らかっているのを見たことがない。
    。。以来〜している
    Mae'r frech goch arni ers dydd Llun.  彼女は月曜日以来はしかを患っている。
  。。間〜している
  Dan ni'n byw yma ers tair blynedd.  私たちはここに3年間住んでいる。
  Dan ni wedi byw yma ers tair blynedd.  私たちはここに3年間住んでいる。


※(注3) 学者の記述分類でもっとも混乱している時制
水谷宏 「習慣・条件」 (3人称単数形の語尾が他の学者のものと違い -e になっている)
Gareth King - conditional
Christine Jones -conditional subjunctive
John T.Bowen - imperfect habitual
過去の習慣「〜したものだ」や英語の却下条件を含む仮定法過去に相当する文を作る。
  

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ウェールズ語の入門編が終わり応用編に入るとすると, それは複文の導入ではないかと思います。 まさにウェールズ語の複文は「複雑な文」の複文です。  そしてヘナチョコです。
例を『ハリー・ポッターと賢者の石』のウェールズ語版(Harri Potter a Maen yr Athronydd: Emily Huws 訳)から引用してみましょう。


Roedd gan y Dursleys bopeth roedd arnyn nhw'i eisiau, ond roedd ganddyn nhw hefyd gyfrinach, a'u hofn mawr oedd y byddai rhywun yn ei darganfod.
「ダーズリ家はほしいものは何でもあったが秘密もあった。 そして一家が大いに恐れているのは誰かがそれを知ることだった」
■ 3つある roedd は英語のbe動詞にあたる bod の未完了過去(線過去)の3人称単数形。 oedd も同じですが a'u hofn 以下が identification sentence になっているためこの形になっています。 最後から4語目の byddai はbod の「習慣・条件」で英語で言えば would be にあたります。 つまりこの文の中には5つの述語動詞があり, 別の言い方をすれば節が次のように5つあるということになります。


(1) Roedd gan y Dursleys bopeth  (= The Dursleys had everything)
(2) roedd arnyn nhw'i eisiau ( = they wanted)
(3) roedd ganddyn nhw hefyd gyfrinach (= they also had a secret)
(4) eu hofn mawr oedd (= their greatest fear was )
(5) byddai rhywun yn ei darganfod ( = somebody would discover it)


(2)と(3)は英語の but にあたる等位接続詞 ond で結ばれています。
(3)と(4)は英語の and にあたる等位接続詞 a で結ばれています。  この単語が母音で終わっているため their にあたる人称代名詞(または所有形容詞)の eu が 'u になっています。


以上の二つの節のつながりは単純です。 英語で言えば複文ではなく重文にあたります。 問題は(1)と(2), (4)と(5)でこちらが「複雑怪奇な」複文です。


● 関係代名詞
(1)と(2)は関係代名詞で結ばれています。 ウェールズ語の関係代名詞も英語と同じく複数の形がありますが, 英語とはまったく違う基準によって選択されます。 すなわちウェールズ語の基本的な語順が VSO であることと迂言文と屈折文があることの2点が影響しているのです。 もっとも実際は省略されていることが多いのでそんなに複雑な印象は持たないかもしれません。 ただし省略されることで文がわかりづらくなってしまうような気がします。


関係代名詞はまとめてみると次のようになります。
関係代名詞節の時制 関係代名詞節が肯定形 関係代名詞節が否定形
主格  現在または現在完了 sy sy ddim
主格以外 y または省略 nad ydw, ydy  など または省略
すべての格 現在または現在完了以外 a (軟音化)または省略 na (軟音化) ※注1
※注1 これは Gareth King の Modern Welsh の記述をまとめたものです。 Christine Jones の Teach Yourself Welsh によると会話ではしばしば na が省略され動詞の後に ddim が付け足されるとあります。 例: Angharad oedd y ferch wisgodd ddim cot. 「アンハラドはコートを着ていない少女だった」  また T.J.Rhys Jones の  Living Welsh と Teach Yourself Welsh には関係代名詞節が未完了過去の否定形の例文として Fe aeth pawb (a) oedd ddim yn gallu cael gwaith i ffwrdd. 「仕事に就けなかった者はみな去って行った」という文があります。   
※注2 Christine Jones の Teach Yourself Welsh によると主格の関係代名詞に導かれる節の動詞は先行詞が複数名詞でも動詞は単数形になるという記述があります。 Gareth King の本にはこの記述はありません。  例: Dyma aelodau'r côr a ganodd y gân.  「ここにその歌を歌った聖歌隊のメンバーたちがいる」  ただし関係代名詞節が否定形の場合は先行詞が複数なら動詞も複数形になるとしています。 例:Dyma'r myfyrwyr na wnaethant y traethawd. 「ここに論文を書かなかった学生たちがいる」



例文:
Dyma'r dyn sy'n byw yn Abertawe. (= This is the man who lives in Swansea.)
    < Dyma'r dyn + Mae e'n byw yn  Abertawe
こちらはスウォンジーに住んでいる男性です。


Dyn ni angen rhywun sy ddim cwyno. (=We need someone who doesn't complain.)
     < Dyn ni angen rhywun + Dydy e ddim cwyno.
文句を言わない人を私たちは必要としています。


Dyma'r dyn (y) mae ei chwaer yn byw drws nesa. (This is the man whose sister lives next door)
      < Dyma'r dyn + Mae ei chwaer yn byw drws nesa.
こちらは, そのお姉さんが近所に住んでいる男性です。
※ウェールズ語では人称代名詞の所有格(所有形容詞) ei を残したまま関係代名詞を使っていることに注意。


Dyma'r llyfr nad ydw i eisiau (ei) ddarllen.
Dyma'r llyfr dw i ddim eisiau (ei) ddarllen.
     <  Dyma'r llyfr.  + Dydw i ddim eisiau ei ddarllen.
これは私が読みたくない本です。
※ウェールズ語では人称代名詞の目的格 ei を残したまま関係代名詞を使うこともできることに注意。


Fe fydd pawb (a) fydd yn colli ei waith yn cael iaundal.
  < Fe fydd pawb yn cael iaundal. + Bydd e yn colli ei waith.
職を失う人は誰もが補償金を受け取るだろう。


Fe oedd y myfyriwr na ddysgodd wers galed.
  < Fe oedd y myfyriwu + Ddysgodd e ddim wers galed.
彼はあまり熱心に勉強しない生徒だった。


● 名詞節
(4)と(5)は英語の that にあたる名詞節を作る従属接続詞 y で結ばれています。 単純に名詞節を英語の that にあたる接続詞が y ということではありません。 動詞 bod の変化形を使ったり前置詞 i を使ったりする場合もあります。  これは関係代名詞の選択と同じでウェールズ語の基本的な語順が VSO であることと迂言文と屈折文があることの2点が影響しています。  


たとえば『ハリー・ポッターと賢者の石』のウェールズ語版の出だしの部分は Broliai Mr a Mrs Dursley (...) eu bod nhw'n deulu cwbl normal .. となっています。 この部分の原文は Mr and Mrs Dursley, (...), were proud to say that they were perfectly normal ... です。  Broliai が were proud to say の部分にあたり eu bod nhw は that they were(または are) にあたる部分です。 Broliai 以下を二つの文に分けると  Broliai Mr a Mrs Dursley と Roedden nhw'n deulu cwbl normal となります。 Roedden は英語の be動詞に当たる bod の3人称複数未完了過去形です。 nhw は they にあたります。  これが動名詞 bod になりさらに their にあたる所有形容詞 eu を添えたのが eu bod nhw です。


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能語および虚字
複数の用法のある機能語の存在もウェールズ語を難しくさせている一因ではないかと思います。 ウェールズ語の文章を見ると i ,  a,  y,  yn,   と言った語がたくさん出て来ることに気づくと思います。 これらは複数の品詞・用法を持っているので頻繁に現れるのは当然なのです。
i  (1)人称代名詞 I  または me  (2) 前置詞 (3) 接続詞的に使う前置詞
a  (1) 接続詞 and  (2) 接続詞 whether  (3) 関係代名詞 (4) 疑問を表す虚字
y  (1) 定冠詞 (2) 関係代名詞 (3) 接続詞 that  (4) 文章語で虚字
yn  (1) 虚字
また 'n,   'i,   'u など短縮形も多く, これらも複数の語の短縮形であることがあり非常にやっかいです。


上記の文構造の項の例文に書いた Es i i Gaerdydd ddoe. には i が二つあります。 最初の i は「私は」でもう一つの i は英語の to にあたる前置詞です。  ここで他の i を使う例を『ハリー・ポッターと賢者の石』のウェールズ語版の第2章の出だしの部分から見てみましょう。
Roedd bron i ddeng mlynedd wedi mynd heibio ers i'r Dursleys ddeffro a chael hyd i'w nai ar riniog y drws...
(ダーズリ夫妻が目覚めて玄関口にいる甥を見つけてからほぼ10年が経っていた)
roedd < bod  の未完了過去
bron  「ほとんど」
ddeng < deg 「10」
mlynedd < blyddyn 「年」
wedi  完了を表す虚字
mynd 「行く」の動名詞
heibio  「過ぎて」
mynd heibio 「過ぎ去る」
ers  「〜以来」
i'r   < 接続詞的に使う前置詞 i + 冠詞 yr
ddeffro < deffro 「目覚める」の動名詞
a  「そして」
chael < cael  「持つ」「見つけるの動名詞
hyd 「〜まで」「長さ」
cael hyd i   「見つける」
i'w  <  前置詞 i + eu 「彼らの」
nai   「甥」
ar  「〜の上で」
riniog  < rhiniog   「玄関口」
y  冠詞
drws  「ドア」



上の引用には i が3つあります。   最初の i は「ほとんど」を意味する副詞 bron が過去形の文で使われるときに必要となる i です(つまり他の時制では不要ということになります)。 2つ目の i は ers が接続詞として使われるときに必要となる i です。  3つ目の i は cael hyd i で「見つける」となる連語の一部です。 上記の Es i i Gaerdydd ddoe で使われている i と違い, どれもなくてもよい, 意味を持たない i であることがわかります。 このように同じ語が虚字的な用法も含めて散在しているのが厄介に見えて, 私はウェールズ語を完全にマスターするのを諦めています。


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文法だけではなく単語もウェールズ語を難しくしている原因かと思います。 イタリア語やフランス語だと英語の知識で類推できる語が少なくないのに, ウェールズ語はその手の単語が少ないようです。 しかも y や w が母音扱いになっていることから子音字が多くなり, 目に「違和感」がある, 読みづらい表記のように思えます。 


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(注) このコンテンツの作成者はウェールズ語の独学者であり専門家ではありません。