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z062 (07月26日)  water を使う慣用句(2)


A lot of water has flowed under the bridge since then.  「あれから随分月日が経ったものだ」


直訳: そのとき以来多くの水が橋の下を流れた。


  Much water has run under the bridge since then. などのバリエーションもあり,また since then を具体的に since 1945 などとすることもあるようです。
また,さらに短く  water under the bridge (米語 water over the dam) とした 「(振り返ってはいけない)過去の出来事」 という慣用句もあります。

 



三省堂の英語諺辞典によると Much water has run under the bridge since then. の初出時期を20世紀前期としています。 意外と新しい表現ということになりますが, そうなのでしょうか。


他のヨーロッパの諸語にも同じ表現が見つかります。
フランス語 Il passera bien de l'eau sous les ponts. 「橋の下を多くの水が通りすぎた」
イタリア語 Ne e' passatta d'acqua sotto i ponti. 「橋の下を水が通りすぎた」
スペイン語 Ha llovido mucho desde entonces. 「そのとき以来たくさん雨が降った」
ドイツ語 Seitdem ist viel Wasser den Bach heruntergeflossen. 「そのとき以来たくさんの小川の水が下って流れた」
オランダ語 Er is heel wat water door de Rijn gestroomd. 「ライン川をたくさんの水が流れた」
フラマン語 Er zal nog veel water door de Schelde (または de Leie) lopen. 「スヘルデ川(またはレイエ川)をたくさんの水が流れた」 (※下記注参照)
デンマーク語 Der er løbt meget vand i stranden siden da. 「そのとき以来たくさんの水が浜辺を流れた。」
ロシア語 много воды утекло с тех пор「そのとき以来たくさんの水が流れ去った」
ポーランド語 Wiele wody upl'ynel'o. (正しい表記ではありません)「たくさんの水が流れた」
チェコ語  Hodne' vody uplynulo. (正しい表記ではありません)「たくさんの水が流れた」


※(注) フラマン語はフランダース地方で話されているオランダ語でベルギーの国語の一つ。
スヘルデ川はオランダ南部に河口のある全長350キロの河川。 イメージ検索
レイエ川はガント市からスヘルデ川と分岐して伸びる支流で全長202キロ。 フランス北部でリース川(Lys) と名を変える。 イメージ検索


これらは英語の A lot of water has flowed under the bridge since then. (または Much water has run under the bridge since then. を元にしている慣用句(ことわざ)なのでしょうか。 そうだと仮定してみると, 三省堂の英語諺辞典が20世紀前期文献初出としていることから, 何か小説とか映画とか歌のようなメディアを通して広まったと考えるのが自然だと思うのです。 しかし今のところ, それらしき作品が見当たりません。





その起源を調べようと検索するとオランダ語の慣用句辞典に行きつきました。 そこにはフランス語の Il passera bien de l'eau sous les ponts. の注として紀元前1世紀のローマの恋愛詩人プロペルティウス(Propertius BC57?〜BC12?)の Elegiarum (エレジー,挽歌)という作品の XV に multa prius vasto labentur flumina ponto という1文を参照していました。 
この部分の英語訳 Long before the love for you changes in my heart, rivers will flow out of the vast ocean から日本語にすると「あなたへの想いは長く変わらず, 変わることがあればそのころには川が, 広い大洋から(水を奪って)流れていることだろう」という意味ととればいいのかと思います。


しかしこのラテン語の詩の1節と今回の慣用句はだいぶ様子が違います。 今回の慣用句が過去の出来事の回想であるのに対し, ラテン語の方は未来への空想になっています。
そして気になるのはラテン語の ponto です。 これは「海」の pontus の奪格(かと思います。 正直ラテン語はちょっと。。)であり, フランス語の pont (イタリア語の ponto ) は「橋」です。 


上記のオランダ語の慣用句サイトの注にあるラテン語の1節と今回の慣用句は無関係なのでしょうか。 それともこのラテン語が間違って解釈されてフランス語の Il passera bien de l'eau sous les ponts. 「橋の下を多くの水が通りすぎた」になり, これが英語になったという大胆な推測も可能なのでしょうか。


オランダ語やフラマン語が具体的な川の名前を使っていたり, デンマーク語が川ではなく浜辺であったり, スペイン語は「雨」であったり ―  と, この詩的な慣用句は, いわくあり気で興味深く, さらに追求したいと思います。 
何か情報をお持ちでしたらメールをください。


(追加情報)
この記事を書いて「水が長く橋の下を流れ」(実際は7年以上経った)たあと,浅野晋様から以下のメールをいただきました。
ありがとうございました。

A lot of water has flowed under the bridge since then. については、開高健がこの言葉をよく用いているので、、私もなにか出典があるのかと気になっていました。


 昨日サマセット・モームの The Lion's Skin を読んでいたら、275頁(Penguin Books のCllected Short Storiesのvolume1)に A lot of water has passed under the bridges since first we met, old boy,
hasn't it?
 というのが出てきました。 


 開高健は、代表作のひとつの「夏の闇」の冒頭の女性との再会の場面で、次のように使っています。

「会えたわ、とうとう」
 激しかかるのをおさえて、
「会えたわよ」
 といった。
「何年ぶりかしら」
「十年だね」
「そうね」
「かれこれ十年だよ」
「そうね」
「たくさんの水が流れたのさ」
 ふいに女が高い声で笑い、
「橋の下をね」
 といった。

また、この橋の下をたくさんの水が流れるという表現は、彼のエッセイでもときどき見かけます。なかなか味わいがある表現です。


 この短編の執筆年はまだ調べていませんが、20世紀前半であることは間違いありません。慣用句だとしたら、もっと前にさかのぼることができるかもしれませんが、とりあえず情報です。


なお、開高健は、もちろんモームを読んでいます。(「風に訊け」80頁)

映画「カサブランカ」の台詞にも、この言葉が使われていることを発見。イルザがリックの経営するサロンにやってきて、ピアノ弾きのサムと再会の会話するところで、こんなやりとりをしてます。


なお、カサブランカの台本は、http//www.weeklyscript.com で閲覧できます。


これまたどうでも良い情報ですが、ご参考までに。

              

Sam wheels in the piano to Ilsa's table. On his face is that funny fear.
Ilsa herself is not as self-possessed as she tries to appear.
There is something behind this, some mystery.

ILSA: Hello, Sam.
SAM: Hello, Miss Ilsa. I never expected to see you again.
(He sits down and is ready to play.
ILSA: It's been a long time.
SAM: Yes, ma'am. A lot of water under the bridge.
ILSA: Some of the old songs, Sam.
SAM: Yes, ma'am.
(Sam begins to play a number. He is nervous, waiting for anything.)


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